[大蛇の横行]

[山代地方の伝承]

[黒 袴]

[民謡]


<黒 袴>
この辺りが山代の荘と呼ばれ後院領であった頃、年貢の取り立てや見回りに、力の強い男を送り込んできた。山代に来た男は赤ら顔で、まるで酒呑童子のような野武士であった。大きな竹篭を棒に突き刺して肩にかつぎ、村々をいばって歩き回った。
男はいつも黒い袴をはき、長い刀を腰にさし、農民を震え上がらせていた。
「まるで黒ネズミのような役人だな。あの格好からすると腹の中まで黒いかも知れないぞ。きっと、ネコババして酒代にまわしているに違いない。」
村の衆は陰でこそこそささやいた。
山代は山の国。山裾を開いて人々は田畑を耕し、貧しく暮らしていた。あるとき二、三年凶作が続いた。ところがくだんの男は、そんなことは意に介さず、家の中を覗いては種モミまで取り上げた。農民の怒りが爆発した。彼らは郷士の大江広実のところに出かけ、何とかならないかと頼み込んだ。
広実は腕に自信はあったが、相手の方が強かった。あえなく黒袴に斬り伏せられた。これを見た妻女のお妙は、白鉢巻き白襷姿もりりしく、村の人のため、また夫の敵を討つため、家にとって返し薙刀を片手にひらりと馬にまたがると、一鞭あてて駆け出した。
隣村で黒袴に追いついたお妙は、まるで鬼神が乗り移ったように薙刀を振り回し見事敵を仕留めた。遠巻きに成り行きを見守っていた村の人々は、ほっと胸をなで下ろした。ところが、それからが大変。ウンカが発生したり、イナゴの大群が飛んできたり、また黒穂病がつき農作物は大被害。人々は天をうらんだ。これはきっとあの黒袴の怨霊のたたりだろうと、噂が広まった。
村人は八幡様の神主さんに相談した。
「悪い奴を祀るなんて、みんな嫌いじゃろうが、背には腹はかえられぬで、小さな祠でも建てようか。」
ということになり、神主さんの案で万葉仮名からとった「玄波可麻(クロバカマ)社」という名をつけて、男の霊を鎮めた。以来なぜか虫害はパッタリやみ、順調に稲も麦も育ったという。今も本郷八幡宮の横、イチイガシの傍らに小さな祠がある。